京都ラーメンと聞いて、一つのイメージを思い浮かべるのは難しいかもしれません。
なぜなら、京都には明確に「これぞ京都ラーメン」と定義できる単一のスタイルが存在しないからです。
むしろ、いくつかの系統が共存し、それぞれが独自の進化を遂げてきた、まさに「百花繚乱」の地なのです。
京都の文化とラーメン

京都には歴史の中でつくられた「京料理」の文化があります。
五体系といわれる「大饗料理、精進料理、本膳料理、懐石料理、おばんざい」です。
基本は「だし」によって創り出される料理。
そして、伝統文化に根ざした「盛り付け」「配膳」により、もてなす文化があります。

この様な京料理の歴史のなかで「京都ラーメン」は、生まれてきました。
だしを基本として食材を生かす「薄味」のなかで、京都ラーメンは「こってりしたスープ」のラーメンなのです。
その不思議さから、どのように生れたのか興味が湧いてきます。
ご当地・京都ラーメンの歴史
京都ラーメンの創業については、調べてみるといくつかの説があります。
1938年「創業」説、1944年「出店」説、1945年「創業」説です。
一番古い1938年(昭和13年)「創業」説とすれば、京都駅付近で中国浙江省(せっこうしょう)出身の徐永俤(じょえいてい)氏が屋台で始めたとされています。
濃い口醤油を使ったこってりタイプのスープで、当時京都では話題となりました。
徐永俤氏はその後1944年(昭和19年)に、下京区塩小路高倉(通称:たかばし)に出店します。
老舗「新福菜館」のルーツです。
その後1949年には、「ますたに」が創業します。
鶏ガラベースのスープに豚の背脂を散らした濃厚なラーメン「京都背脂醤油ラーメン」が広まりました。
京都ラーメンの特徴

代表的な系統は、大きく分けて以下の3つです。
豚骨・鶏ガラ・濃口醤油系(「新福菜館」など)
- スープ: 豚骨や豚肉の出汁に、濃口醤油を合わせた真っ黒なスープが最大の特徴です。見た目の色の濃さから想像するほど塩辛くはなく、むしろ深いコクと旨味が凝縮された、まろやかな味わいです。この系統は、京都ラーメンの最古参の一つとされており、古くから京都の食文化に根ざしています。
- 麺: ストレートの中太麺が一般的です。スープの色がしっかりと絡む、存在感のある麺です。
- 具材: 薄切りのチャーシューがたっぷりと乗せられることが多く、スープとの相性が抜群です。
鶏ガラ・背脂系(「ますたに」「珍遊」など)
スープ: 鶏ガラをベースにした清湯(チンタン)スープに、豚の背脂をたっぷりと浮かべたスタイルです。見た目は油分が多くこってりしているように見えますが、ベースのスープは意外にもすっきりとしており、背脂の甘みとコクが加わることで、独特のまろやかさが生まれています。
麺: やや低加水のストレート中細麺が主流です。スープとのバランスが取れた、程よい硬さともちもち感が特徴です。
具材: シンプルなチャーシュー、メンマ、そして九条ネギがたっぷりと盛られるのが定番です。
鶏白湯(こってり系)(「天下一品」「天天有」など)
スープ: 鶏ガラを白濁するまでじっくりと煮込んだ、ポタージュのようなドロドロの超濃厚スープが特徴です。レンゲが立つほどの粘度を持つ店も多く、麺にスープがこれでもかというほど絡みつきます。見た目に反して、しつこさがなく、鶏の旨味が凝縮されたクリーミーな味わいです。
麺: スープに負けない、しっかりとしたコシのあるストレート中太麺がよく使われます。
具材: 具材もシンプルにまとめられていることが多く、濃厚なスープを主役としています。
共通する特徴と京都らしさ
- 九条ネギ: 京都ラーメンに欠かせないのが、京野菜である「九条ネギ」です。香りが高く、甘みと独特のぬめりがあり、ラーメン全体の風味を引き立てます。多くの店で、無料で「ネギ多め」にできるサービスがあるのも特徴です。
- 低加水麺: 系統を問わず、加水率がやや低めのストレート麺が多用される傾向にあります。これにより、スープとの絡みが良くなり、シコシコとした食感が楽しめます。
- 豊富な薬味: 店によっては、辛いニラや辛味噌、おろしニンニクなど、豊富な薬味が用意されています。好みに応じて味の変化を楽しめるのも、京都ラーメンの魅力の一つです。
- 定食文化: ラーメンとライス、そして唐揚げや餃子といったセットメニューが充実している店が多いです。これは、京都の学生街の食文化が影響していると言われています。
トップクラスのこってりとしたスープの理由
京都ラーメンの特徴は、日本のご当地ラーメンの中でもトップクラスの「こってりとしたスープ」です。
現在のスープは、鶏ガラベースの濃い口醤油で味付けし、背脂をたっぷりのせています。
かなりのこってり系ですが、意外とあっさりしているのも特徴です。
疑問は深まります。
「なぜ京料理の薄口文化」のなかで、このような「濃い口醤油を使った、こってり系のスープ」が定着したのでしょうか?
調べてみると次のような説が浮上してきました。
屋台で始めた「徐永俤」氏には、当時日本全国各地に中国から渡ってきた仲間がいたといいます。
徐氏は、東京で濃い口醤油をベースにしたラーメン仲間から、レシピを取寄せたからだと言われています。
また、鶏ガラベースのスープを使うことで、豚骨よりもさらにこってり感が増すのです。
当時の京都の食文化の中では、かなりインパクトのあるスープだったのではないでしょうか。
まとめ
ここまで、ご当地「京都ラーメン」の歴史。
京都に根ざしたこってりスープのルーツについて紹介しました。
薄味の京都に、なぜこってりスープのラーメンが根付いたのかを知ることができました。
外国からの文化が融合した結果ではないかと感じました。
あらためて、ご当地「京都ラーメン」を食べてみたいものです。